お萬狐(おまんきつね)-三条市の民話ー

『郷土誌資料集 井栗』より

 ずっとずっと昔、
塚野目と鶴田の間に薬師という集落があった。

いつの頃から建てられたのか、
大きな薬師堂の伽藍があり、
それをとりまくように
粗末な百姓家が十軒あまり立ち並んでいた。

このあたり一帯は
樹木がうっそうと生い茂っていたが、
その中でひときわ目立つ
大きなタモの老木があり、
天に届かんばかりであった。

その木の中は広いウロがあり、
むしろが2,3枚も敷ける程だった。

 村人は
ここは霊狐の住みかだと言って、
誰一人近寄らなかったが、
いつの間にか
旅人や乞食の絶好の宿り場になっていた。

 ある日、
薬師堂の和尚がウロの前を通ると、
そこに可愛い女の子がシクシク泣いていた。

和尚は捨て子と思い込み、
お堂に連れて帰って
「お萬」
と名付けて可愛がって育てた。

お萬は大そう賢く器量よしで、
和尚様へのご恩を忘れず、
よくなついていた。

 やがてお萬が17、8の年頃になり、
和尚は
どこか真面目な男のところへ嫁にやりたいと
あちこちへ当たっていたうちに、
お萬はどうしたことか、
夜になるとタモの木のウロに出かけては
若い男と逢引きするようになった。

嫁入り前の体、
和尚は小萬を呼んで注意したが、
お萬はいつの間にか
家を抜け出して行ってしまうので、
和尚は寝たふりをして
お萬の後をつけることにした。

 お萬が出ていくのを見計らって、
和尚は後をつけた。

お萬は、タモの木のウロに入って行く。
和尚はそっと中を覗いてみて、アッと声をあげた。

 木のウロの中には、
村の若者とお萬の着物を着た
一匹の女狐がいた。

和尚の声で女狐は目を覚ますと、
たちまち狐の姿は消えて、
お萬が現れた。

呆然とする和尚の前に
お萬は手をついて

「私はこのタモの木のウロに住む
不老不死の女狐でございます。

旅人や乞食たちに
私の住みかを奪われたので、
やむなく和尚様をだましてきました。」

と一部始終を語り、

「最後にご恩返しの印に申します。
今すぐに辰巳の方角へお移りください。
近々、この薬師の森に
きっと天変地異が起こります」

と言うが早いか、
タモの木の頂上目がけて
するすると登っていってしまった。

和尚はお萬、お萬と呼んだが、
それっきりお萬は振り向かなかった。

 お萬は、それっきり姿を見せなかった。
タモの木はそれから日一日と衰えはじめ、
お萬がいなくなってから百日目、
嵐の夜に倒れてしまった。

 それから数年たって、
お萬が予言した通り、
天地も裂けんばかりの雷鳴、
車軸を流す大雨、
大石をも転がすような大暴風雨に見舞われ、
薬師の森はあとかたも無く消え去ってしまった。

その証拠に、
ここのあたりの田んぼの下には、
大木がいっぱい埋まっているそうだ。

(原文要約)