お藤の上方まいり-三条市の民話ー

『郷土誌資料集 井栗』より

 昔、伊久里(いぐり。今の井栗(いぐり)村)に、
おふじという美しい娘がいました。

ある年、おふじは
上方まいり(京都見物)に出かけました。

日数をかさねて都の近くにきて、
明日はいよいよ
都に入らうとする日の夕暮のことです。

峠にさしかかると、
追いはぎ(ぬすびと)におそわれ、
大事なさいふをとられてしまいました。

おふじは大へん悲しみましたが、
気をとりなおして、都に入り、
父に教えられた町のあるはたごや(やどや)
にたどりつきました。

 やどにつくと、やどの主人にむかつて、
ありのままにわけを話し、助けを求めました。

おふじは

「さて、私の村に「伊久里の藤と」といつて
あたり誰一人知らぬもののない藤の名所がございます。

方々の国々からこの藤の花を見ようと
たくさんの人がおとづれます。

どうか、あなたも一度この藤を見にきてください、
そして私の家に泊つて
ゆつくりあたりを見物されますように、
その時には、今お借りしたお金を倍にして
必ずおかえししたいと思つています。」

……といいました。

 やどの主人は、おふじの身なりもりつぱで、
気品のある身のこなしから、
この娘のいうことは間違いない
と思つたのでありましょう、
二つ返事で、泊めてやることにしました。

 それからおふじは京都見物をすませて、
越後の国へ帰つてきました。

 翌年雪が消えて春がくると、
やどの主人はおふじのことを思い出して、
伊久里の藤を藤をたづねて
はるばる越後へやつてきました。

伊久里(いぐり)のあたりにきて、村の百姓に

「ここらあたりの庄屋の娘ときっていたが、
おふじという娘のいる家はどこですか」

とききました。

百姓は

「そんな家はないし、
おふじという名は聞いたこともない」

と答えました。

 やどの主人は困って思案にくれていましたが、
ともかく伊久里の藤というのを一目見ようと、
藤の木のあるところへやってきました。

見れば、なるほど大そう見事な藤の木で、
白い花が今を盛りと咲きほこつていました。

思わずうつとり見とれていましたが、
フト見ると藤の木の下の方の枝に、
さいふが結びつけてあるではありませんか。

おどろいて、手にとつてみると、
女持ちのさいふで、
去年おふじが山の中で盗まれたといつた
さいふそつくりでした。
そして中にはおかねがたくさん入つていました。

 主人は

「ああ、これはきつと、
あのおふじといつた娘に貸してやつたお金を、
おれに返してくれたにちがいない」

と思い、
そのさいふを枝からとりはずし、
さいふをおしいただいて、
ふところに入れ、
しずかにその場を立去りました。

(原文そのまま。古い書籍のため、一部古文の仮名遣いあり)