不出ヶ沢-湯沢町・旧三国村の民話-

『新潟県伝説集成 中越篇』

 三国峠の手前、二居と浅貝の中間に、

不出ヶ沢(でずがさわ)

という渓谷がある。

昔、この谷の奥に妖怪変化が住んでいると言われ、

地元の百姓はもとより猟師でさえ恐れて、

一歩も足を踏み入れなかった。

しかし遠方から来た猟師や山菜取りの人たちは、

「そんなバカなことがあるもんですか」

といって、村人の止めるのも聞かず、

沢の中へ入って行き、

二度と帰ってこなかった。

困った庄屋は、

「この奥に怪物が住んでおり、

入った人は一人も出てきません。

絶対に入らないで下さい」

と書いた立て札を立てた。

するとこの噂は次から次へと伝わって、

それ以来誰も谷へ入る人はなかった。

 ところが寛永年間、

参勤交代で江戸に行くため、

ここを通りかかった長岡藩主

牧野忠辰(まきのただとき)が、

この標札を見て、

「誰かこの沢に入って

怪物の正体を見とどけてくる者はいないか」

といった。

すると家来の中から、

日ごろ豪傑として知られている

千本木源太兵樹(せんぼんぎげんたべえ)と

大平杢兵樹(おおだいらもくべえ)

の二人が進み出て、

「私たちが見とどけてまいります」

とこの難役を買って出た。

 二人は、

怪物を退治して村人たちを安心させようという

義侠心も手伝って、

意気高らかに沢の奥へ入って行った。

ところどころに倒れた大木が行く手をさえぎり、

人の姿に驚いた鳥の群れが、

奇妙な鳴き声をあげて飛び立つなど、

探検は非常に困難をきわめたが、

怪物らしいものは全然現れなかった。

 二人はがっかりして戻り、

藩主にこのことを申し上げた。

藩主は二人の勇気をほめ、

たくさんの褒美を取らせた。

それ以来、猟師や樵(きこり)が入っても

必ず戻って来たという。

(原文そのまま引用。読みやすく改行を独自に加えました。)