機巻き天女-南魚沼市(旧塩沢町)巻機山の民話-

出典『方言で読む越後・魚沼の昔咄』

 大木六という村に、

弥次右衛門(やじえもん)という若者がいた。

ある年のこと、父が亡くなり、

母も病気になって寝込んでしまった。

弥次右衛門はまだやっと十五になったばかりだったが、

家を守るために朝早くから夜星が出るまで、

田んぼや畑で必死に働き、

家に帰ったら母の看病をし、

村人は感心だと噂していた。

 田植えが終わった日、母が弥次右衛門に頼んだ。

「黄連(おうれん)という薬草が

自分の病気に効くと聞いたことがあるが、

高い山の上に行かなければいけない。

難儀かけてすまないが、早くよくなって働きたいから、

その薬草をとってきてくれないか」

弥次右衛門は笑って頷き、

早速明日にでもとってくることにした。

 次の日、弥次右衛門は

まだ暗いうちに家を出て山に登っていった。

お天道様がのぼり始める頃、

もう少しで山頂までに着くところまで来た。

 弥次右衛門は休憩しながら

遥か眼下に広がる田んぼなどの眺めに見とれていると、

山の上の方から、

トンカラトン、トンカラトンと

機を織るような音が聞こえてきた。

 弥次右衛門は吸い寄せられるように山を登った。

山頂に着くと、まるで空に浮いているような

緑一面の草原と色とりどりの花々が咲いており、

その真ん中に、この世のものとは思えぬような

美しい娘が機を織っていた。

 娘の機を織るの早いこと早いこと。

見る見るうちに見事な錦の機が織られていく。

弥次右衛門が見とれていると、娘が振り返って、

「そんなに驚くことはない。私はこの山の天女です。

お前の親孝行にいつも感心していた、

母親の病気は必ず治してあげよう」

と言った。

弥次右衛門は嬉しくて涙を流したところ、

娘は続けて

「それと、お前の村にはまだ氏神がいない。

私が氏神となって村人を守ろう。

連れて行ってください。」

と機を巻き取って胸に抱えた。

 弥次右衛門が天女をおぶって村まで帰ることになったが、

天女は急に恐ろしい声で

「家に着くまで、何があっても後ろを見てはならない。

見たらただでは済まなくなるぞ」

と言った。

 弥次右衛門は天女をおぶって

山をどんどん下って行った。

不思議なことに背中の天女は真綿のように軽く、

弥次右衛門は気になって気になって、

麓が近くなってきたあたりで

我慢できずにチラッと振り返ってしまった。

弥次右衛門が見たのは、

見るも恐ろしい、頭が八つもある龍神だった。

弥次右衛門は腰を抜かしそうになったが、

病気の母親や村人のことを考え

勇気をふるって歩き続けた。

 家に着いたところ、背中にはたった一つ、

錦の機の巻物があっただけだった。

 弥次右衛門は村人と相談し、

村が見渡せるところに御社(※「木六神社」だという)

を建て、龍神を祭り、

錦の機を納めて朝夕欠かさずお参りをした。

 すると、弥次右衛門の母の病気はほどなくよくなり、

弥次右衛門も嫁と子供に恵まれ、

家はあとあとまで栄えた。

 しかし、天女との約束を破って

背中を見てしまった弥次右衛門の左目は

一生涯つぶれてしまった。

 このことから、

弥次右衛門が薬草をとりに行った山を

「巻機山」

と呼ぶようになったそうだ。

(原文要約)